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今日は眼科に眼鏡のレンズ換える為の視力計りに行ってきました。
いやー裸眼で0,1そんでもって眼鏡で0,3
それなのに日々ノン眼鏡で生活してた私ってどんだけ。
あれですから、何事も勘で生きてる人間ですから(苦笑)

視力検査中のこと。
看護婦さん「はい、これはどうですか?」
ワタス「えー…と、左?」
看護婦さん「Cじゃないです、平仮名の“つ”です」

自分、いっそ消えて無くなればいいと思った瞬間(ほんとにな)




そんでもって今日の続き。
一回のメールで転送できる用量に追い付いちゃいそうなんじゃが…
ううーん説明がくどいんだろうなぁ…ショボンヌ´`


笑う姫君 4



***


眩しい光。
この輝く御殿にももう慣れたかと思っていたのに、陛下が人にお会いする時使われるというこの大広間といったら。
朱塗りの大きな柱が、淡い翠色を湛えた床石が、私に新たな眩暈を引き起こしました。


「戚、戚」

「っ、はい…!」


どなたか私を呼ぶ声に、叩頭して床に垂れたままだった顔を上げました。
眩しい。眇めた瞳にぼんやりと、いつのまにか目の前の玉座に座る人の姿が映りました。


「劉邦さま…」

「良く来てくれた」


うむ、と満足気に頷かれたお顔はあの時のそのまま。しかし身に纏われた黄色地のお召し物の厳かなこと。改めて、劉邦さまは物語に聞いた皇帝陛下その人になられたのだと感じました。


「遠くから疲れているであろう?
数日ゆっくり休み、早く宮中に慣れてくれ」

「有り難いお言葉、勿体のうございます…」


教えて頂いた通りに答えて、頭を垂れました。
ほお、と陛下のお声。


「戚は綺麗な言葉を扱えたのか、流石わしの見込んだ娘じゃ」


にっと本当に嬉しそうな笑みを浮かべられて。私もああ良かった、とゆっくり顔を上げながら自然と微笑みが浮かびます。
そういえば、あの女官を私にお付けして下さったという張良さまはどこにいらっしゃるのでしょう。今すぐにでも、厚く御礼申し上げたいのに。

やっと心も落ち着いてきた私に父は元気か、あれから不便は無かったか、と問われる陛下の質問にお答えしながら、玉座の両脇に文官がお二人控えておられたのに気付きました。

一人の方は黒い一重を藍色の内着の上に羽織られて、黒い冠を被っておられました。高い背に涼しい瞳。かっこいい、と思った時にそのお方と眼が合いこちらに向かって微笑まれました。
驚き瞳を伏せた私に陛下がどうした?とお声をお掛けになるのに私はふるふると首を振るばかり。
クスリと笑った黒い御大臣に陛下が「なんじゃ陳平?」と問われました。


「いえ、なんて愛らしい姫君かと」


そうじゃろう!と笑う陛下。気恥ずかしくて視線を少し外すと玉座の右側に立たれたもう一人の御大臣が視界に映りました。
そのお方は陳平さま、と呼ばれた方の黒い着物とは対称的な白い袍を来て、その中に濃い翡翠色の着物を召しておられました。小柄ながらもすらりと立たれた姿は美しく、前髪は垂らしたままで、お顔の色は白い陶器のように綺麗でした。
始め、陛下の両に控える御大臣様だと思った私ですが白いそのお方の姿をまじまじと拝見して思い直しました。

―女性ではありませんか。


「また、どうしたのじゃ戚?」


じっとそのお方を見つめていたせいで、陛下が階段を下られてすぐ近くまで来ておられたことに私は全く気付かず。


「陛下…あの、正室のお后さまは…」

「うむ?呂稚がどうかしたか?」

「お后さまは男裝をして、陛下のお側に侍るのものなのですね…存じ上げませんでした」


御三方はきょとんとした顔をなさいましたが、今後陛下の次に一番お世話になるであろう皇后様の姿を見付けた私はそのことで頭がいっぱいでした。


「今後どうぞ宜しくお願い致します、呂后様」


不思議そうなお顔をなさっている白い着物の后様に向き直り、両手を膝の前につつと揃えて叩頭致しました。



「……私が、呂后?」

「え…?」


まさかその女性のお顔から男の方の声が発せられようとは、露にも思わず。


わはははは!と陛下の哄笑が広間の隅々まで響きました。陳平さまも身を二つに折り曲げて笑っておられます。何事か、と奥の柱から女官達がこっそり顔を覗かせているのが気配で分かりました。


「そうか戚、こ奴が呂后かと思ったか!」


ぽんと私の肩に手を乗せて涙を流すほどに笑い続ける陛下。
何がなんだか分からず目を丸くするだけの私に陳平さまが声をお掛けになりました。


「確かに、美女と見紛う顔の持ち主ですがね…こちらは、軍師の張良殿ですよ」

「ちょ…張良さま?!」

「…ええ」


ぶすりと、不機嫌なお顔はどこから見ても綺麗な女性のそれなのに-やはりお声は男性のもので。
幾日前から私の中で結んでいた張良さまの像。立派なお体に真白い髪、口髭を蓄えた老獪な御大臣。それが、目の前に立っていらっしゃるその人は、男と分かっていても妙齢の貴婦人にしか見えません。


「ああ笑い過ぎて苦しいわ。どうじゃ陳平?戚を夫人に取って良かったろう?」

「ええ、陛下はお目が高い。夫人は私にも遥かに及ばぬ才をお持ちかも知れませぬ…ねえ、呂后様?」

「…呂后に不敬でしょう、陳平殿」


再び笑い続けるお二人。私はじわじわと身を焼く羞恥心と罪悪感とに苛まれつつ、こっそりと張良さまのお顔を垣間見ました。
…ああ、当然の、不快気に顰められた柳眉。


「…呂后様は、まだ数日の間は離宮でご子息の劉盈様と過ごされる予定ですから。ここにはおりませんよ」

「た、大変な失礼を…」

「いーや戚は悪くないぞ。女みたいな面したこ奴が悪いんじゃからな」


陛下はそうおっしゃって張良さまのお背中をばしばしと叩きつつ、私の手を引いて立ち上がらせました。

「うむ、お陰で久方のあいだ会わぬで生じておった蟠りも溶けたわ。
戚、散歩じゃ!わしの宮殿を見せてやろう」

このような服では暑苦しい、着替えるか。とおっしゃっり陛下は広間の奥に向かって身を翻しました。
陳平さまも急いでそれを追われます。


「ちょっと陛下ぁー本日はまだ朝務が全て終わってはおりませんがぁー」

「お前のその頭でなんとか量を減らせんのか?」

「出来る限り減らしたものをいつもお渡ししてるんですけどー」


喧々と会話を交わしつつ、陛下と陳平さまは奥に姿を隠されてしまいました。結果、ただ広い広間には私と張良さまのみ。

気まずい。
このまま私も下がれば良いのでしょうが、その前に何かご挨拶をしませんと。


「…お、お怒りになりましたよね張良さま。本当にすみません」

「いいえ」


ごく短いお返事、ああやっぱりお怒りなんでしょう。


「…さあ、戚様も早くお召し替えに向かいませ。陛下をお待たせするおつもりですか?」

「あ、はい…」

それでも、向けられたお顔は穏やかで。言われて女官達の待つ回廊へ駆け―そうになるところを抑えて静々と歩きました。


「あ!あの張良さま…」

「なにか?」


御礼を申し上げねばならなかったのを思い出し、私は足を止めました。


「あの…私に礼儀を学ぶ機会を与えてくださったのですね、本当にありがとうございます」


深く頭を下げながら、その恩人に大きな恥をかかせてしまった矛盾に気付いて情けなくなってしまいました。

「…お顔をお上げになって下さい、夫人たるお方が臣に頭など下げてはなりません」


言われて顔を上げ、そこにあるのはお人形のように整った―そう、白く表情に乏しいお顔で。


「陛下は寛大なお方ですが、それに甘えることなく礼をお尽くしなさいませ」

「はい!私、皆様に遅れをとらぬよう精一杯勉強して陛下にお仕えする所存です!」

「……」


その時、一瞬張良さまのお顔に浮かんだ表情は―今思えば、憎悪にも似た憐憫だったのでしょうか。


「…?張良さ…」

「よく聞け、卑しい出自の小娘よ」

「…え」


その低い声は、一度聞いたら忘れることなど出来ぬ、氷と同じ痛みを私の胸に刻んで。


「お前は運良く此処におるだけだ、分をわきまえよ」

「……」


その言葉は、初めて聞かされるものとは思えず。
何故ならこの数日の間、ずっと私の心の奥に棲み憑き離れず凝り固まっていた思いだったからです。


「余計なことをするな」


ただ、笑って陛下のお傍におればいいのだと。


「…しかと、心得ましてございます」


俯き呟いた私の声を確認してか、張良さまは無言のままかつかつと靴を鳴らして外へと出てゆかれました。


「……」


私は、ばかです。
美しい宝物や輝くような貴人達に囲まれ、その一部になったかのように思い込んでいたのですから。
ほんの数日前まで麻の擦り切れた着物に身を包み、地面を見つめて汗だくで鍬を振るってばかりいた、卑しい賎しいこの小娘が。


「…ひっく」


伏せたままの瞳から、一粒熱い水が零れました。
泣いちゃ駄目だ、そう約束致しましたのに。しかし、涙を止めようにも瞳を擦っては折角施された白粉が、紅がぐちゃぐちゃになってしまうでしょう。成す術なく、私は俯いているばかり。


―尊い身のお方達は、一体どのようにして涙をお流しになるのでしょうか。








「みーちゃった」

扉を通り、中庭に面した回廊に陳平が立っていた。


「女の子を泣かせるなんて…怖いお局様ですねえ…」

「…四十路の男を捕まえて、いつまでも気色悪いことを」


悪びれもせずハイハイと笑う、この男は似たような歳ながらそうとは思えぬ精悍な美丈夫だった。時たま望まぬ誤解を招く貧弱な己の見た目を省みて嘆息。いっそ髭でも生やすべきなのか。


「では、冗談は抜きとしましょう…何故、戚様にあのような事を?」


陛下にあんな事言ったって知られたら、さすがのあなただってただじゃあ済まないでしょう?とまくし立てる。
いつもはぼんやりと霞んだ瞳が心配気に光っていて、思わず苦笑した。


「…私は、彼女をこんな所に連れて来てしまったことを大分後悔しているんですよ」

「では、なんでまたあんな傷付く物言い…」


言いかけてふと片眉を彼は顰めた。やはり、察しの良い。


「だからこそ。私はあのお方を古しえの妲妃にも、かの虞美人にもしたくはないのですよ」


妲妃とは、紂を篭絡し殷王朝を崩壊に導いた悪女。
虞美人はこの目で見たこともある、純粋過ぎる心で覇王に仕えて散った姫。
悪意の渦巻く権力の海で無垢な少女が生きていく術は、ひっそりと身をやつしていくことだけに違いないのだから。


「君は…損な性格の持ち主だ」

「構いません、なんと言われようと」


心配してあげてるのに、というのを一笑に付してその場を辞した。
それは、私がこの世を自分の居場所と思えてないからであろうか。流れる血にも権謀にも、もう嫌気が差してしまった。多くを望まぬ女子供にさえ容赦なく牙を剥くこの俗世に。


早く、私はこの世を捨ててあの仙界に身を置きたくて仕方がないのだ。



***

良くも悪くも対称的な美形軍師s(笑)
流石に白い着物を張良が着てたわけはないんだけど、イメージで。小説だからー(この一言に集約)
使いっぱしり役人が着る色だもんね、白て。

楚漢は男の人でも女の人でも、美形から爺さんからイロモノまで、数多いるから楽しくて仕方がないんだなぁ…
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