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続きです、えいえい。

もう時代考証とかは外しちゃいけない重要なトコだけで勘弁してくだせぇーい。
うん、ピスメとかさ、あの程度でご勘弁…
1.5次創作、みたいな。


あ、前回の「韓王が反乱~」ってちげーよ!「燕王」だよ!
韓信のこと考えすぎて、思わずフライング打ち間違い。
こっそり修正してきました~。


今回は実験的に9割創作な子。
例のあの人の次男坊が登場です。





笑う姫君 6




***



明け方から降り続いていた雨は止み、若葉に滴の光る午後。
私は一人、窓辺に小さな牀を構えて絹の羽衣に刺繍をしておりました。綺麗な翡翠色の絹絃が手に入りましたので、呂后のご息女・魯元公主さまに小さな縫い花にあしらって差し上げようと思ったのです。
侍女達には手ずからそのような事をと窘められましたので、では代わりにやって下さるかとお願いしましたら、彼女たち自身は実は裁縫などやったことがなくて出来ないのだと、目を白黒させて頭を下げました。
宮中にあっては、お仕えする人々の方が私より良い生まれの方だということは少なくありません。


「あら…?」


今度は彼女達を誘って教室でも開いて差し上げようかしらと考えながら顔を牀から上げたところ、入口に小さな子供が立っておりました。
見習いの子舎人か、少府丞か何処かからの迷子か。後宮の外とはいえこんな奥御殿まで幼子が迷い込んでしまうなんて珍しい。


「あの…どちらの娘さん?」

「……わたくしのことですか?」


くりくりとした瞳で少女は首を傾げました。
利発そうな顔をしていて一応の礼儀は弁えているようです。やはり見習いの女官か何か…もしかしたら先程の侍女たちが気を利かせて連れてきた針子かとも思いましたが、それにしては幼すぎます。背丈からして―4つか、5つ。


「一体どこから来たのかしら?ここに居ることが分かったら、こわーい兵隊さんに外へ摘み出されてしまいますよ」

「そのしんぱいはございません。きょかはいただいてるはずですので」

「そ、そう…?」


呂律の回りきらない幼い調子で、御大臣さまのような言葉遣い。筆で描いたような柳眉に巴但杏(アーモンド)のような瞳。
はて、どこかで見た顔にこの少女の顔は似ているような気が…


「ああ、ご機嫌うるわしゅう戚夫人。お元気でしたかな?」

「あ…陳平さま」


少女の横にすらりと黒い影が立ちました。烏羽のような衣に、それと同じ髪と瞳の持ち主。


「すみませんねぇ、可愛らしい女官の皆さんに随分声を掛けられまして、遅くなりました」


にこにことおっしゃいながら失礼、と挟んで乱れた鬢を撫で付けて直されました。そういえば、今日は陳平さまがお訪ねになる予定だと侍女が申しておりましたっけ。


「…きゅうちゅうのにょにんはすべてへいかのものです。おじうえのただいまのおことばはききずてなりませぬ」

「あれ、はぐれたと思ったら…もう来てたの?」


何か気難しげにものを諭す少女に、陳平さまはひくりと身を竦ませました。


「陳平さま、そちらの娘さんのことご存知ですの?」

「ああ、この子ですか?」


ぽんぽんと二つに髪を結い上げた少女の頭を撫でながら、陳平さまはくつくつと笑いました。


「…なにか?」

「いえいえ」


それでも笑うことを止めずに付け足されます。


「夫人とこの親子はとことん相性の良いのやら、悪いのやら…さあ、夫人にご挨拶なさい」

「おはつにおめにかかります。しょうせい、せいは“ちょう”、なは“へききょう”ともうします」


姓は、張?
まさか、と陳平さまに顔を向ければ満面の笑みでお答え下さいました。


「彼は張僻彊。張良殿の次子です」


なるほど、この不快げに顰めたお顔に見覚えのあったはずです。
私は熱くなる頬を意識しながら、頭の隅でそう思いました。



  



「だって髪を二つお団子にしてらしたから…てっきり、その…」

「…女子かと?」


はい、と羽虫の鳴くような声で答えましたら、気になさいますなとお笑いになりました。陳平さまは上座から手前に座され、その奥には僻彊くんが。


「そういえば、市井の男児は小さいときから髪は一つに結い上げてしまうことが多いんだそうですね。
官の子息ともなると、小さいときはこのようなY角(あかく)に結うんですよ。ちなみに、よく見ると女子のそれとは多少異なってはいるのですが…」

「ははぁ…」


わたしの無知といったら、このような少年にまで迷惑をかけてしまうのですから救いようのない。


「ごめんなさいね僻彊。どうか気を悪くしないでね」

「ふじんがきになさることではございません。“人の見目は内面より滲み出るもの”としょもつでももうしております。しょうせいのふとくのなすところです」

「……?」

「気にしておりません、って申し上げたいんだそうですよ」

「はぁ…」

先程から溜め息ばかり。私よりほんの少ししか生きてはいませんでしょうに、一体この小さな頭の中には何が詰まっているのでしょう。


「僻彊は張良殿が都を去られてからうちでお預かりしているんですよ」

「何故、お父さまとご一緒なさらなかったの?」

「それはもちろん人質…あ、いえ…もとい、僻地にあっては重臣の子息とはいえ官位を得にくいですからね。同僚の誼みで私が代わりに後見を務めているわけです」


陳平さまの説明になるほど、と思いつつ最初口に乗せられた不穏な言葉が引っ掛かりましたが様子から察するに余計な詮索はあまり歓迎されないだろうと止めました。


「普通の小さい子って童唄や民話を聞いて育つものでしょう?
僻彊ときたら唄代わりに楚辞、人形の代わりに与えられたのが諸子百家でしてね…初めて会った時には、こんな爺むさい幼子がいていいのかと舌を巻いたものです」

「まあ」


張良さまが書斎で小さな僻彊くんに論語やら兵家を気真面目に説いてる御様子がありありと想像できて、思わず笑いが零れました。


「“弧掌鳴らし難し”とももうします。しょうせいはちちうえのおしえにしたがい、ろうせいのかんをみにつけるべく、ひびけんさんしておるのです」

「でも毎日頑張り通しでは疲れちゃうでしょう?
ねえ、今日は甘い饅頭を用意してあるのよ。お一つお食べなさいな」

「…い、いただきます」


奥間から侍女が椀に乗せて菓子を運び入れると、澄ました顔は崩さずも明らかに瞳を輝かせて甘く煮詰めた豆の入った饅頭に手を伸ばしました。


「それで…陳平さま、今日はなんのご用ですの?」


その様子を満足げに見つめてらした陳平さまは、私の声に振り向くと同時に少々困った顔を致しました。


「それが…近いうちに戦がありまして」

「戦?」

「ああ、そんなにお顔を曇らせないで下さいませ。僻地の者が企てた小さな反乱ですよ、国に大事はございません。
ただ…それに陛下は酷くお怒りになりましてね、自ら親征し乱を平定なさるおつもりなのですよ」

「そんな…」


陛下自らが戦地に赴く日が来ようなど、全く想像していなかった私はひどく狼狽致しました。
しかし考えてもみれば、初めてお会いしたときも陛下は甲冑に身を包み戦場に立っておられたのではありませんか。


「戦時中、私は陛下の参乗典軍を務めておりました」


陳平さまは私に、参乗典軍とは大将の乗る車に陪乗して監察を務める役職だと説明を加えて下さいました。


「この度もその役を賜りまして、私も軍に加えて頂くことになりました」

「それは…どうか怪我などなさいませんよう、お気をつけ下さいね」

「有り難いお言葉、痛み入ります…そこで、畏れ多くも夫人にお願いしたい儀がございまして…」


そう言うと、ちらと隣に視線を送られました。


「…僻彊を?」

「私が都を離れている間、夫人のお傍に置いて頂けませんか?」

「ええ…構いませんけれど…」


しかし、なんでまた。
陳平さまのお屋敷にならば常時沢山の使用人がお仕えしていて不自由はないでしょうに。


「いえ、生まれながらに高い身の上にあると真の意味で忠恕の心というものは中々養うことが出来ないと私は思うのですよ。
ですからこの機会に夫人のもとに御奉公するのも良い経験になるのではと…きっと子舎人の真似事くらいこなせると思いますよ、ねぇ僻彊?」

「じゃくはいものにはございますが、ふんこつさいしん、おつかえいたすつもりです」

「そういう事なら…喜んでお引き受けしますわ」


忠恕の心なら十分備わっているように思えましたが、お話の相手が増えるならば私にとっても良いお話でした。
男児とはいえまだまだ小さく、それに張良さまのご子息とあれば誰からも諌められはしないでしょう。


「聞き届けて下さって良かった、やっと安心致しました。
では…出陣に際していくつか処理しなければならない懸案もありますので、私はお暇させて頂きます」

いつものようにニコニコと笑いながら立ち上がり、僻彊くんに「夫人に精一杯お仕えなさい」と声をお掛けになりました。
優雅に一礼して室を発とうとし―


「ああ、戚夫人。一つ進言しておきたいことがございました」

「なんでしょう?」

「陛下のことです。
これは…私の推測ですが、今後もしかすると今回の親征に際して陛下から夫人に無理なお願いをなさるかもしれません…その時は自分の心に正直なお返事をなさいませ」

「陳平さま、私はどんなお願いであっても陛下のご意思ならお受けするつもりでお仕えしておりますのよ」

「それでも…お返事するのに一瞬でも、心中でお悩みになる事がございましたら、その時は私めの言葉も一考なさって下さいませ」
 

つまらぬことを申しました、そうおっしゃって陳平さまは足早に立ち去られました。


「…変な、陳平さま」


私が陛下のお願いを、辞することなど決してありはしないでしょうに。



 

黒い衣、冠に藍色の孔雀の羽根を付けた男は、後宮の出口に向かってしずしずと歩を進めていた。


「これでひと先ず、安心ですかね」


一人ごちながら回廊を急ぐ。
同僚の息子すら己の謀略の道具として使っていることに薄ら寒さを覚えながら、心の中では安堵の方が大きかった。
 

燕王が反乱を起こしたという報告を聞いた時、劉邦の顔に浮かんだ焦燥と怒りと、恐怖の表出。


(元からそんな予感はしていたんだ…明朗でいて、実際の所はひどく臆病な方だったから)
 

そのような人間にとっては天下は掴むことよりも、それを維持していく事の方が心に対する負担は大きい。
今、その男の支えとなっているものは―あの戚夫人に他ならなかった。
自分が彼であれば、取るであろう行動は想像に難くない。きっと他人も外聞も気にはしないだろう。

僻彊はそれを阻止する布石の一つ。あの子のことだから、言わずとも己の役を理解しているかもしれない。


「張良殿は突き放すことで彼女を守って差し上げる心積もりのようですが…私にはそんな真似はできませんなあ」


向かいの廊下で女官達がこちらに視線を送っていた。 微笑み手を振れば、嬌声を上げて愛らしく微笑む。


「女性は優しく、慈しみ、守って差し上げるものです」


稀代の伊達男はそう一人ごちて笑う。
その面を上げれば浮ついた顔付きは冷たい策士のそれに豹変しており、新たな殺戮に向けての謀略を脳髄の中で練り上げ始めていた。
 





後日、親征を間近に控えた劉邦は重臣や身内を集めた席で戚氏を名指してこう言った。


「戚、この遠征に従い来てわしの傍に居よ」


太古から禁忌とされてきた女人を戦地に伴うこと。 それを堂々と命じる皇帝にその場に居合わせたものは色を無くした。



勿論、指された彼女も同様に。
いつも微笑みを湛えていた瞳に、初めて戸惑いの影が射した。




***

って、お妾さんいつも連れまわしてたんだけど、あのおじさんわ(苦笑)
あくまでこっそり。バレバレだけど。

やっと、次からドロドロしてくるか…な?

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  • (*´∀`*)
しゃま 2007/06/28(Thu)23:02:25 編集
次男!!次男!!お腹いっぱいですありがとォォォゥ!!!!(怪
これからもっと活躍するの…かな?
  • おかげさまでん。
白太 2007/06/29(Fri)18:22:53 編集
僻疆はしゃまちゃんと動かしてたから書きやすかったの^^
え?もっと動かしていいん??(笑)
基本が韓国ドラマ運営だから(笑)楽しみにしてもらえるんならいくらでも動かしちゃうよ~
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