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続き。

ちょっとはそれっぽい戦争を書く予定だったのに所詮私は無双脳のおんなみたいです、ハイ。

とりあえず陳平 がんばる!


笑う姫君 14


***



まだ冬も始めと侮っていたが、こう冷たい風の吹き荒れる平原に何日も身を置いていると段々と体に疲労が溜まりゆくのが分かる。
昨日から喉が渇いて仕方がない。篭城に節水が必要なのは認めましょう、でもその制約を受けるのは兵士達のみにしてはいかがでしょうか?我々文官はこうやって篭っている最中も大声を上げながら走り回らなければならない生き物なんだから。


「おい陳平!」


しんと静かな冬の城内に響いた張りのある声に足を止めれば、がしゃがしゃと鎧を鳴らしながらこちらへ劉邦殿が向かってくる。引き連れている共は少ない。
この人も篭城中にじっとしてられないたちの人だから、先の戦の最中も暇となれば城中をこうやって歩き回るのが常だった。

(もっとも、私は打開策を編みつつの精神統一法がこの放浪癖なわけですが…殿の場合は本当に暇潰しですから、会う人会う人にチャチャ入れてくだけなんですよねェ…)

そんな劉邦殿に何があったのか、いつだか逆鱗に触れられたレキ生は余りの怒りにその老体が耐え切れず熱を出して倒れてしまったり、樊檜殿の鼻にふざけて棗を詰め込んでいったら呼吸が出来なくなってしまって大騒ぎになったり、邸宅の中に引き篭ってしまった張良殿(これが私とは対称的な彼なりの精神統一法らしい)を家から出させようと門前で騒がしい宴を開いて韓信殿に軍中の風紀を乱したとして殿も含めた数百人の兵が処刑されそうになったり―


「なんじゃ、ニヤニヤして」

「元からこーゆー顔なんですよ」


思い出して込み上げてきた笑いを我慢しつつ、おどけて返答すれば小気味よい笑い声を上げられた。その度に大きな掌で相手の背を叩かれるのはこの方の癖で相当痛いのだが、何故か一度も不快に思ったことは無かった。

この人の悪戯好きな子供そのままの行動は生真面目な部下達にとっては調子を崩されるばかりだろうが、この明るさが何度私たちの軍を救ってきただろうか。項羽の率いる大軍勢に囲まれ怯えて幾夜も夜を過ごす中、引き起こされる馬鹿みたいな騒動の度に私や兵士達の強張った緊張は良い具合に緩和されたものだった。漢の軍に身を投じたばかりの頃はこの采配を劉邦殿が故意に演じているのだと思い感服したものだったが、一月も絶たない内にあれが素なのだと知った。


「英布の奴めが昨夜急に布陣を変えたと聞いてな、曹参の奴をからかいに行くついでに見ておこうと思ったんじゃが、お前もか?」

「殿とは優先順位が逆なんですが…まあ、そうです」


英布の反乱軍の勢いは予想以上だった。
粛正されゆく功臣達の燃え尽きる前の蝋燭にも似た最後の抵抗は激しく、陸賈殿の軍を突破して想定以上の早さで殿の率いる軍と衝突。正面からやり合っても悪戯に兵を消費するだけと判断した我々は近場の城に篭城を決め込んでいた。
別動隊として放ってある樊檜殿の軍に英布の軍の補給線を切ってしまうように指示してある。その影響は朝と夕に上がる包囲軍の釜の煙が細ってきていることから見て取れた。我々の兵糧はまだ十分、今まで行ってきたギリギリの篭城と比べれば気の楽なものだ。


「くそっ…あ奴め、項羽との戦の時にどうしてあれだけの力を出さなんだ…」


城壁の階段を上る。私の先を往かれる陛下は鎧を重そうに鳴らしつつ、その足鳥は随分とゆっくりで歩調を合わせながらかなりのもどかしさを感じさせられた。
彼の竜顔を際立てていた鎧が今では彼の衰えを我々に見せ付ける。戦の中にある多少の興奮状態からなのかいつもより表情は明るいが、出立するまでの逡巡を思うと彼が今もかなりの精神的負担を感じているのは間違い無かった。


「どうされました、陛下?」


城壁の上で焼き固められた煉瓦を積んだ土垣に肘を掛けたまま動かなくなってしまった劉邦殿に声を掛ける。包囲は遠巻き、どんな弩でもここまで弓が届くわけがないから安全なはず。
宮中であれば礼を失する行為だがここは仮にも戦場、誰も咎めはしまいと劉邦殿の横に身を乗り出して城外の様子を瞳に映し―


「あれは…」


整然と並ぶ反乱軍。中央に重歩兵を、後曲に翼を拡げるかのように配置された騎馬兵団。私も劉邦殿もその布陣は見知ったものだ。


「…英布も、趣味が悪い…」


そう、攻めるに長けたこの布陣。私が楚軍に籍を置いていた頃に何度組み込まれその一部として戦っただろうか。
あの項羽が最も得意としていた陣容がそのまま、私達の目の前に広がっていた。


「―貴、様ッ…どの面下げて出てきおったッ!!」

「!」


雄叫びにも似た劉邦殿の凄まじい怒声に目を凝らせば遠巻きに拡がる陣から一つ、はぐれた点のように一騎こちらに近付く影が認められた。
いつも心のどこかに燻っていた恐怖という過去の亡霊が形を為して劉邦殿の前にある。怒りの表情の下に恐慌の色がはっきりと見えた。直感と同時に背筋を這い上がった嫌な予感に声を掛けようとしたが、またの怒声できれいに掻き消される。


「何が不満でこのような暴挙に及んだかッ!答えんか英布ッ!」


やっと表情の垣間見える辺りでその騎馬は止まった。無造作に結い上げられた赤毛に叛意を表す黄色の袍、そして額の入れ墨を不敵に歪ませて英布は叫んだ訳でもないのに我々にも聞こえる通った声でこう言ったのだ。


「帝たらんと欲せしのみよ」

「っこ…の!」


ガリと劉邦殿が土垣に爪を立てた。まるで度を失ってしまった顔色、駄目だこれでは英布の思う壷に―


「っ陛…」

「騎馬兵は全軍北門に備えい!打って出るぞ!」


カツカツと大きな靴音を立てて石段を下る。快晴に映える黄色の袍に高らかな号令。見上げる兵達の顔に浮かんだ緊張を含んだ喜色に、劉邦殿の怒りが彼らにも昂ぶりとなって伝播したのだと思った。


「へ、陛下!駄目ですってば!英布の見え透いた挑発じゃないですか…!」

「うるさいッ!奴の不遜に目をつぶっておるようではわしももう終わりじゃろうがッ!」


そう言う瞳には確かに憤りが息巻いているが、だが深い所に蔓延っているのはやはりただの恐怖。
『帝たらんと欲せしのみ』―ただ皇帝になりたいと思っただけだと。僭越極まる宣言に、凶暴性を含んだ素朴な物言いは知っている者ならば項羽を思い浮かべずにはいられない。気付いたら握り締めていた拳が汗で湿っている。私だって感じているのだ―恐怖、まして今の劉邦殿では。


「早くせんか!開門じゃ!」


段々と熱気が高まる、響く鬨声。ああ駄目だもう間に合わない!城の中の漢軍はただただ感情に流されて突撃するだろう。


「―ッ狼煙を上げろ!樊檜将軍にも打って出るよう報せを!」


城壁に据えられた狼煙台に気付いて、出来る限りの大声を張り上げた。


「っえ…」

「早く!急げッ!」


呆気に取られている少年兵を怒鳴り付けて脇に積まれている薪を無理矢理握らせた。ぐっと唇を結んで少年が作業に移り出したのを見つつ場外に目を向けた。颯爽と自軍に舞い戻った英布は各軍団の前を駿馬で走り抜け号令を掛けていた。やはり計算された挑発、後曲を薄く広げ中央に兵を集めてゆく。迎撃に強い構え、こんな所に飛び出しては陛下を含め一人残らず取り殺される。

「陳平様…!」

「分かっておる!!」


城壁の下から危機を察した文官達が叫ぶ。こうなっては我々の説く言葉に静かに耳を貸す者はいまい。


「あ、上げますッ!」


特殊な薬玉を筒に押し込み火を付けた。太陽に勝る瞳を焼く閃光を発し、白い煙を濛々と上げて高く高く昇る。中天にて再び光を発しながら弾けた。


「開門ー!」


狼煙が打ち上がったのと騎馬兵団が北門から踊り出たのはほぼ同時だった。

先鋒、その後続、そして第三隊―


「っ嘘で、しょ…!」


最後尾どころか十分前線と呼べるその三番目の軍中に劉邦殿の姿を認めた。それに馬車ではなく騎馬に乗っている。もう何ヶ月も全力で走る馬になんて乗ってないだろうに!


「…私も出る!百騎でいい、付いて来てくれ」


無くても殆ど大差もなさそうな革の胴当てだけを付けて馬に跨がり門を潜った。
混戦に、出てきたはいいが戦闘に参加できず余ってしまっている騎馬の間を左右に広がって守りの構えを取るよう指示しながら、それらを押し分け衝突点へ向かう。
風下―ぷんと血の臭いが鼻をついたのに嫌な汗が流れる。無事でいてくれるか?樊檜殿が到着するまでもってくれるか?


「!」


幾重にも重なった重鎧兵に囲まれて檄を飛ばす人、その人が纏うのは黄袍だ。ほっとしたと同時に怒りに任せて今までの私の苦労を水泡に帰そうとするこの人に腹が立った。怒鳴らなければ戦場で声は通るまい、そう思って息を深く吸い込んだ時だった。
突如、その横合いから屈強な黒馬の一団が突撃しその場一帯が乱戦となった。劉邦殿が少し先を視界に写して何事か叫んでいる。視線を巡らせれば黒馬の一群の中、一騎だけ銀馬に乗る騎影。


「英、布…!」


駆け出しながら、漏れた私の声は掠れていただろう。何しろ、奴は争う多くの騎馬に囲まれて身動き取れなくなっている劉邦殿にキリキリと弓を引き絞っていたからだ。
高い、琴の音に似た弦の音と共に目を見開いたままの劉邦殿の右肩にその矢は深々と突き刺さった。開いた口が何か言いたげにわなないたがぐらりと力を失った身体が馬上で倒れ―


「―劉邦殿っ!」


英布の笑み、見開かれ表情の宿さない彼の瞳、駆け寄ろうと虚しく叫ぶ自分の声を感じた。敵味方、劉邦殿が地面に叩き付けられようとするその一瞬動きを止めたその時、私の他に動いている影が一つだけあった。


「!!」


一匹の騎馬が高く跳躍してその場に踊り出、そこから雄叫びを上げながら勢い良く飛び降りた男が劉邦殿と地面の間に滑り込むように割り入って落下する体を受け止めたのだ。


「っぐ…間に合った…とは言えぬな」

「樊檜殿…!」


劉邦殿を抱えて身を起こした巨体は正しく陛下の護衛隊長でもある樊檜殿だった。彼の後ろ、土煙を上げながら現れた一団は山中に潜んでいた別部隊。よろよろと立ち上がった樊檜殿に我に返った敵兵の一人が剣を振り上げる。


「がっ?!」


その喉元に一筋の矢が突き立った。


「斉射用意!味方には決して当てるな、放てェ!」


我々の頭上を跨いで雨の如く矢が跳びゆく。的確に敵兵のみを打ち抜いてゆくこの斉射は―


「曹参殿…!」

「遅くなりました!」


小柄ながら引き締まった身体を鎧に包み、白馬を駆る彼の姿に私は安堵を覚えた。馬上でしゃんと双剣を抜き放ち、我々と英布の間に立ち塞がる。


「韓信の遺した戦車がやっと使い物になりそうでね、城から出させた所だ、英布!あの兵器と正面からぶつかりたいか?」

「おうよ、それにてめェの兵糧線は全部俺の軍が潰しちまったぜ?」


奇しくも漢の重鎮達が戦場のど真ん中に会していた。異様な光景に兵の誰もが我々に手出しすることなく殺し合う。英布が奥歯を噛み締めているのが分かる。この勢いを殺さなければ勝てる―だか。


「曹参殿…」

「言わんとしていることは存じてます、お任せを。これでもあの韓信の副官だったんです、軍師の真似事ぐらいはしてみせましょう」


それだけ言うと彼は敵陣に向き直り、右手を掲げて大声を上げた。


「尖翼の構えだ!歩兵は数人が一組となって突撃せよ!」


声に反応して蛇のように兵卒達が動き、無駄なく展開してゆく。そして曹参殿の号令とともに重攻―戦神・韓信の鍛えた最強の軍が未だ機能しているのを目の当たりにして私はただ純粋に驚いた。


「退路は俺が開く、陛下を頼むぞ」


樊檜殿が逞しい腕で劉邦殿を抱え上げて私の前に座らせた。そう、一刻も早く劉邦殿をここから連れ出さなければならない。一人では座っていられぬ身体を支えようと腹に手を回したら垂れた血に指が滑った。うめき声と浅い呼吸、歪む額に浮かんでいる脂汗―ぞっと背筋に嫌なものが走る。


「行けっ!」


背に負った戦斧を振り回し、立ち塞がる三騎を薙ぎ倒した。更に突き進む樊檜殿に怯んで退路を塞ぐ騎兵が二つに割れる。


「急がんかッ!」

「う、わっ!」


樊檜殿が私の馬の尻を厚い掌で思い切り叩いた。堪らず高い声で馬は嘶き、凄まじい速さで走り出す。連れて来た百騎が行く手を塞がんとする者を屠っては道を開いていった。
私の前で揺れる、劉邦殿の身体が馬から滑り落ちそうになるのを何度も立て直す。顔は見えないが洩れる呻きに混ざる切れ切れとした悲痛な声―意識は失っているはずなのに何度も何度も、駄々を捏ねる子供のようにそう洩らす。

死にたくない、怖い、怖いこわい!

分かっている。彼は英雄なんかじゃない。だから私や彼等はこの人に自分の事を捧げたいと思えたのだから。
怖い、私だって。このままこの人を失うとしたらこれほど怖ろしいと思えることなんてない!
手綱を握る拳が、ガタガタと揺れる。

私が息を切らし帽子を取り落とした事も気にならなくなった頃、ようやく城門に辿り着き桟橋を走り抜けた。
城門を潜って中に走り入った所で限界を超えた馬が崩れ落ちた。陛下を庇おうと必死に受け身を取った私を駆け付けた医務官達が助け起こす。


「わ、私はいいから!陛下を…!」


すぐにも輿が運び込まれて慎重に寝かされ運ばれてゆく。馬から落ちた時に痛めたらしい肩に顔を顰めながら呼吸を整えようと地べたに座り込んだまま手を貸そうとする侍医達を制していると、劉邦殿の乗る輿に小さな影が駆け寄ったのが見えた。


「陛下…陛下ぁ!」


戦場に似つかわしくない高い声―戚夫人は悲鳴じみた声を上げて輿に縋り付こうとする。それを侍女らに押さえ付けられて諦め、その場に崩れ落ちた。高くか細い泣き声は嘘偽りのない本物であるのは明らか。

(…まあ、それが悲しみのものか恐れのものかは存じ上げませんが)

投げ出されたままの自分の掌を見た。懸命に陛下を支えていたそこは血に塗れて醜い朱色に染まっている。

(…まだ、亡くなりはしないだろう。でももう…)

場外で大きな声が上がった。
少し遅れて見張り台に上っていた者達も歓声を上げ始める。何事かと顔を上げれば先程狼煙を上げさせた少年兵が私の姿を認め、階段を転がるように駆け降りて私の元へと走ってくる。その顔に浮かぶのは満面の笑み。


「引いて行きます!陳平様、英布の軍が後ろから崩れるように退却を始めました!」

「そう、か…」


これで下せなければこちらに勝機は無くなっていた。樊檜殿や曹参殿の軍を全て動員してでも絶対に退いてもらわなければならないと推論していた私には、当たり前の報告ではあったが。


「…では、軍医長に、負傷者の回収を急がせるよう指令、を…」

「陳平様…?!」


しかしそれを聞いて安心したのか、はっきりしていたはずの視界が急にぼやけ―私はそのまま意識を失った。





***


エセ戦。色々嘘つきで申し訳が立たな…!
あと3、4回使えば終われるかしら…?

陳平って最初はオネェ系のイメージだったんですけど(笑)そのまま横山読んだり史記の関連本読んでるうちになんだかホストになりまし た(中和中和)
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日々をいかにポジティブに生き抜くかを目標に、少しの事でネガティブ観点に陥る、ありがち日本人。
歌は鬼束ちひろ、詩は谷川俊太郎、ゲームはロックマンシリーズをこよなく愛してます。
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